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2024/05
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 「ジャック、ねえ、ちょっといい?背中のリボンを結んでくれない」
 朝早く、テュリスは廊下でピョンピョン飛び跳ねながら、十分すぎるほど豊かに発育した白い胸を半ばはだけさせて、銀髪を後ろに撫で付けた使用人の少年に背中を向けた。
「まったくもう、何で僕なんですか。メイドさんに手伝ってもらえばいいでしょ、それに、あんまり裸みたいな格好でうろうろするのはやめてくださいったら」
 不平を漏らしつつも、少年――ジャン・ジャック・ラヴァンは少女の肌に顔色一つ変えず、テュリスの着ているドレスの背中から垂れる白いリボンを取ってぐっと引き絞り、腰のあたりから肩甲骨まで開いていた網み上げを閉じた。
歳が近いこともあり、令嬢とそれに仕える使用人という立場にしては、二人の会話や付き合い方はかなり気楽で遠慮がない。
 「ベラドンナ義姉さんはよく下着一枚でうろうろしてるわ、ああっと、あまり腰の方は絞らないで。コルセットって昔から好きじゃないのよ」
 「奥様は既婚者でしょ。それにあの方は下着姿が浜辺にいる漁師並みに自然すぎて、もうこの家の風景の一部ですよ。対してお嬢さんは嫁入り前なんですから、少しは周りの男の目を気にしてくださいよ」
眼鏡のレンズ越しに、少年の青みがかったグレーの瞳がある。メイヤード家の使用人の制服として支給されている、ブラウンを基調にした動きやすそうなベストとズボンを身に着け、清潔感のある白いシャツの襟元からは黄色いスカーフが垂れていた。むき出しの腕とくるぶしがいかにも若々しい。
「してるじゃない。新大陸はお洒落な人が多いから、前よりも身だしなみに気合が入っちゃうな。このドレスなんて、前の土地じゃ派手すぎてとても着れなかったから、ここに来て普通に着られるようになって嬉しいの」
そう話すテュリスの服装は、深みのある青い生地を基調に胸元に白いレースを配した、胸の半ばから肩口までの肌が大胆に剥き出しになったデザインのドレスだ。膝より丈上のミニスカートの裾には繊細なドレープが入り、明るいブルーのラインで縁取られている。スカートの下のしなやかな脚には刺繍入りのグレーのタイツがフィットし、脚のラインを見事に浮き立たせていた。
腰元にはレザーベルトと合わせて大きなレモンイエローのリボンが巻かれ、そのリボンをさらに彩るように可愛らしい花のコサージュが添えられている。対として、二の腕の半ばまでをドレスと同じ青地の薄い手袋が包んでおり、若い娘らしい華やかさが発揮された服装と言えよう。
ただ――彼女の表情そのものは、どこか浮かないものがあったが。
 「どこかにお出かけなんですね」
 常にテュリスの金髪を飾る、白い花の髪飾りの位置を直してやりながら尋ねるジャックに、テュリスは低く「ちょっとね」と答えた。
 「そういえば、キズキの坊ちゃんも朝早く出かけられていましたよ」
 「……キズキが?」
 「ええ、朝一番に庭の花壇に水やりをしていたんですが、そのときに裏門へ向かって歩いていく坊ちゃんを見たんです。鞄を背負って、散歩にしては結構大荷物だったなあ」
 ジャックの言葉に、ベルトに固定したカタナの位置を調整していたテュリスは、ゆっくりと顔を上げた。
 「……まさか、家出じゃないでしょうね」
 「い、家出?」眼鏡の奥の灰色の瞳が泳ぐ。「ま、まさかあ。何でまた坊ちゃんが……」
 ジャックは乾いた笑い声を上げたが、すぐにそれを引っ込め、メイヤード家令嬢と顔を見合わせていた。
 



 
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