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2024/05
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 なにやら騒がしい。さっきから壁越しに激しい足音と怒鳴り声がくぐもって伝わってきている。
目隠しのせいで見えないものの、確かに周りにいる男たちも慌てているらしい。何しろ身に覚えは有り余るほどにあるのだ。紛れもない脅迫の証拠であるキズキを抱え上げてどこかへ隠そうとでもしたのか、いきなり身体に太い腕が回された。
驚いて身をよじった拍子に、腕から抜け出せたはいいが側頭部を思い切り床にぶつけてしまう。その弾みで目隠しがはらりと外れ、一気に視界が開けた。
 湿り気を帯びたような色の木材で成された部屋だ。想像よりも広く、キズキの家の大広間ほどもある。壁には古ぼけた銛やロープ、錆付いた剣、槍などがごちゃごちゃになって掛けられている。室内には六人ほどの男がいて、どれも清潔感とは縁のなさそうな連中ばかりだった。
 そこまで視認したところで、舌打ちと共にぐいと髪を掴まれる。再度目隠しをされそうになったとき、十メートルほど前方にある小さな扉が勢いよく開けられた。
 否、蹴破られた。
 「ああっ、いた!」                                                                                    
 右足を蹴り出した姿勢で、利き手に抜身の剣を持ったテュリス・メイヤードが叫ぶ。その背後から、少女を捕らえようと大柄な男が戸口いっぱいに覆いかぶさるようにして襲い掛かった。
 手首のスナップでカタナの柄が逆手に持たれ、突進してきた男の動きにカウンターして背中側に刃が突き出される。白刃に太腿を深々と貫かれ、悲鳴が上がった。
 崩れ落ちる背後の男に対して一度も振り返らぬまま、剣を持ち直したテュリスがブーツの足音を響かせて室内に踏み込む。
 「メイヤード家の人間を誘拐するだなんて……後が怖いですよ!」
どう考えても商売仲間ではありえない娘の姿を認めた時点で、室内にいた男たちはすでに腰元の鞘にあった刃を抜き放っていた。人質を解放する気は毛頭ない……もとい、少女一人が相手だと高をくくっているのだろう。
 「何者だ?」
 先の会話から、リーダー格とおぼしき野太い声の主、エイモスが剣を構える。声相応の恰幅のいい容姿で、濃い髭面に色褪せた革鎧を纏っていた。
 「私は、テュリス・メイヤード」
 両手で保持したカタナを油断なく上段に構え、テュリスが低く名乗る。
 
IMGC2D0D6B5-thumbnail2.jpg
 
 「メイヤードの娘か!どうりで見覚えがあると思ったら――小娘が、一人で何をしに来た!?」
 「彼を助けに」短く返答しつつも、テュリスの瞳は室内にいる全員の動きを追っていた。エイモスとの間合いは四メートルほど、すぐ斜め右には若い男がいて、両手で槍を構えている――腕を伸ばせば、穂先が彼女の脇腹に難なく届く位置だ。
彼女一人でどうにかなるのか?懸念したところで、キズキは変わらず猿轡をされ、両手足を拘束されて床に横倒れになったままだ。それ以上の何かをできるはずがない。
 「大した度胸のお嬢ちゃんだ、なあ?人質は一人で十分なんだが」
 「そうね、私はきっとあなた方の手に余ります。彼を解放してくれたら、本国に通告するかどうか、少しは考えてもいいですが」
 表情一つ変えずにテュリスが言うと、エイモスが怒りに吼えた。
 「クソガキが、調子に乗るなよ!貴様を殺してメイヤード卿に死体を送りつけてもいいんだからな!」
 「できるのか?そんなことしたら、ますます立場が――」
 言い終えぬうちに、斜め右から彼女目掛けて槍の穂先が空を裂いて突き出された。
テュリスがくるりと身を半回転させる。長い金髪を掠め、一撃は彼女が先程までいた虚空を貫いていた。槍を繰り出した男が、空振りの勢い余ってたたらを踏む。男が体勢を整える前に、テュリスはすでに相手の懐に入っていた。
テュリスが男の左の膝を、骨よ砕けよとばかりに蹴り下ろす。ガクンと腰が抜けたように相手がバランスを崩した次の瞬間、至近距離からカタナの柄頭で眉間を強打され、男は一瞬で白目を剥いて意識を手放した。
「ガキが!」
吐き捨て、剣を振りかざしたエイモスが床板を蹴って彼女に向かって突進した。テュリスは素早く正面に向き直ったが、彼女がエイモスと刃を交えるより早く、開きっぱなしだった戸口から飛び込んできた長身の男が彼女を背後に庇うようにして立ち塞がっていた。


 
 
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