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2024/05
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 「お、オドボール!?お前何を……ぎゃああっ」
 行く手を阻まれたエイモス目掛け、オドボールと呼ばれた男の腕が一振りされる。彼の握っていた刺突剣、その金属製のガード部分に顎を強打され、エイモスは床に倒れ伏した。
 「悪いね、エイモス。だから俺は誘拐なんぞやめとけって言っただろ」
 嘲るように唇を歪め、オドボールが足元に笑みかける。エイモスはもがくようにして起き上がろうとしたが、その背中を踏みつけてカタナを振りかぶったテュリスが大きく跳躍していた。
 「どけぇ!」
 着地しざま、ちょうど目の前にいたエイモスの部下の一人が構えていた槍の柄を、半ばから両断する。そこから敏捷に横っ飛びして、剣を持ったベスト姿の男の正面に躍り出た。
慌てて刃を振り下ろしてきたベストの男に対し、素早く身体を斜めに傾がせてその一撃を避ける。少女ではなく床板に白刃をめり込ませた相手へ、テュリスのグレーのタイツに包まれた脚が蹴り上げられた。
 股間にブーツの靴先が一片の慈悲もなく叩き込まれ、男は潰れた呻き声を漏らして地に這いつくばった。
 「キズキ、大丈夫なの!?」                                        
男の背中を踏み越え、テュリスがまっすぐキズキの元へ駆け寄ってこようとする。彼女へ、先程槍の柄を切断された男が懐剣を抜き、雄叫びを発しながら襲い掛かろうとした。
が、懐剣を握る男の顔に血線が走った。少女との間に割り込んできた相手によって胸部から頬にかけて縦に切り上げられて、くぐもった悲鳴を上げて仰向けに倒れる。
 テュリスがはっとした表情でその人物を振り返ったが、男を切り裂いたレイピアの主――オドボールは、前髪に隠れていない方の眼で少女を一瞥すると、急かすように顎をしゃくった。姿勢は右手に持った剣の切っ先を手前下段に、体捌きを滑らかにするために左腕を頭の横に掲げた刺突の構えであり、攻撃と回避、傾向と対策を同時に兼行する。
 男に促されてテュリスはキズキのところにやってくると、一瞬のうちにキズキの戒めを切り払った。
 「け、怪我はない?し、心配したんだから」
 「……俺の銃は?」
 猿轡を取ってすぐの台詞がこれだった。メイヤード家令嬢の眼が点になる。
 「え、えっ?」
 「いつも持ってただろ、金色のやつだよ。俺の荷物がどこにもないんだ」
 「そ――そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
 困惑して肩を上下させるテュリスに、背中側から声がかかる。
「おい、嬢ちゃんたち、何をしてるんだ。さっさと帰るんだから喧嘩は後にしろ」
テュリスの背後を守っていたオドボールだ。少女の方を肩越しに振り返って完全に余所見の体勢だったが、斬りかかろうとしてきた敵の動きには俊敏に反応していた。アルファベットのSを描くようにレイピアの剣先が旋回し、同僚であったであろう男の太鼓腹を易々と切り裂く。
絶叫が上がり、吐瀉された血がこちらまで飛んできた。慄然と顔をこわばらせている少女の横でキズキは立ち上がり、改めて周囲を見回した。持っていた荷物はどこにもなかった。呻きながら転がっている男たちがどこかへやったのだ。くそったれ。
開きっぱなしだった扉から、ばらばらと数人――全部で四人ほど――が武器を携えて援軍としてやってきた。それを見たオドボールはレイピアを左手に持ち替え、足元に転がっていた槍を蹴り上げて利き手でキャッチすると、大きくそれを振りかぶった。
 
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満身の力を込めて槍が投擲され、びょうと部屋を横切ったその穂先は、一番乗りに室内に踏み込んだ威勢のいい男の胴体を串刺しにした。
一番手が即死したとて、後続の連中が臆さずオドボールに挑みかかったのは大したものかもしれない。だが戦士としての技量は、キズキの前に不動のまま立つ、長髪の男の方が遥かに上だった。
素早くレイピアを利き手に持ち直すと、二人目の顎を振り上げたブーツの爪先で蹴り砕き、同時に右手から肉薄してきた三人目の胸を剣で貫く。
二人が次々床に倒れ付している間に、四人目の男がいつの間にか間合いを詰め、オドボールの斜め後方を捉えていた。
 剣による横薙ぎの一閃が、オドボールの胴に没入する。四人目の男の顔がほんの一瞬勝利の色に満ちたが、すぐにそれは消え失せた。
オドボールがつまらなそうに鼻を鳴らす。彼は剣の刃の側面を、片腕の肘と曲げた片足の腿で挟み止めていた。
必殺の白刃を、よもや止められるとは思っていなかったのだろう。四人目の男は剣を放し、よろよろと後退していた。
「おい、得物を捨てちまうのか?この間までは大層な大口を叩いてたってのに」
オドボールに嘲笑され、男は何か言い返そうとしたのかもしれない。だが、言葉を発する前にその口腔いっぱいにレイピアの刃を味わい、脳髄を鋭利な先端によってかき回されていた。
 剣を引き抜いたオドボールは、足元に転がっていた顎を砕かれて呻く男の心臓を、返す刀で背中側から一突きにしていた。鼾にも似た苦しげな声がぴたりと止む。
もはや廊下から援軍がやってくる様子もない。テュリスがあえて殺さず無力化させた相手も、オドボールの手によってきっちりと“処理”されていた。
今や室内にいた誘拐犯らは全員床の上で息絶えていた――あと一人を除いて。
 
 
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