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2024/05
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髭面を引きつらせ、顎を押さえたエイモスがふらつきながら身を起こす。右手からぶら下げられた剣がことのほか重そうだ。口元から流れる粘っこい血が唾液と混ざり、泡立ちながら床に滴った。
「お、オドボール……やはり裏切ったな――まさか、メイヤードの小娘と組んで俺たちを潰しにかかるとは」
 オドボールが、裂空音をさせてレイピアを振ると腰の鞘に収めた。
 大仰に肩をすくめる。
 「俺もいいかげんあんたらに愛想が尽きたのさ、エイモス。あんたが、ちょっとした密輸だけで満足するワルのままだったら、よかったのに」
 「こ、ここまでして、メイヤードのガキに手を貸す理由がどこにある。金で抱き込まれでもしたのか?」
 それはキズキも思っていたことだ。訝しげに長髪の男の背中を見つめたが、背を眺めているだけではその表情が窺えるはずもない。傍らにいるテュリスだってそうだろう。
 「そんなんじゃねえさ。だが――そうだな、色々とテュリスお嬢の方に世話になってね」
 「ふざけたことを――」
 言葉を続けようとしたエイモスだったが、響き渡った銃声にビクッと身体を痙攣させた。
 「ああっ!」テュリスが短い悲鳴を上げる。
 エイモスの恰幅のいい身体が仰向けに倒れる。オドボールの伸ばされた腕の先には金色の拳銃が握られており、今さっきの発砲による硝煙を銃口から立ち上らせていた。
 いかにも残念そうに首を振り、倒れている男に一歩歩み寄ったオドボールの背中に、テュリスが飛びついた。
 「何をするの!?どうして殺したのよ!」
 「まだ死んじゃいねえさ。それほど銃の扱いはうまくないんでね」
 少女を振り払い、かつての雇い主の傍らまでやってきたオドボールがその髭面を見下ろした。キズキも彼らの後について近寄ってみる。
エイモスはちょうど臍の上あたりを血で黒く染め、蒼白な顔で小刻みに全身を震わせてはいたが、荒い呼吸を繰り返して確かに生きていた。だがそれも時間の問題だろう。
 「苦しみを長引かせないようにしてやるのが、雇い主に対するせめてもの慈悲だな」
 呟き、銃口を下向けたオドボールは躊躇なく引き金を引いた。発砲炎が網膜を焼き、至近距離で銃撃を受けたエイモスの頭は弾けて、血潮と共に赤い肉片と脳漿が飛び散った。
 
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 一連の所業に怯えたように眼を見開いているテュリスと、自分を拉致した男の末路を無表情に見下ろしているキズキを一瞥すると、オドボールはふんと鼻を鳴らして拳銃をジャケットの懐に収めた。
 「俺のやり方に怖気づいたか?だが、こいつをこのまま生かしておけば、きっと後々お礼参りされるだろう。こいつのせいで俺が本国に目をつけられる可能性もあるしな。俺もこいつも、こういう商売に首を突っ込んじまった以上、どんな死に方をしても文句なんて言えねえのさ」
「で、でも、なにも殺さなくたって」
 せめてもの抵抗のように声を絞り出したテュリスだったが、男は失笑を漏らしただけだった。
 「俺に二度も同じ説明をさせるつもりか?君はそんなに出来が悪い子だったっけ?こいつを生かしておけば、俺も君たち一家もいずれ報復される。だから殺したと言ったろう」
 「あなたはこれまでもそうやってきたの?」
 刺々しい言葉。オドボールは首を巡らせると、少女の険しい視線を真正面から受け止めた。
少女と男に通ずる何らかの線が、今まさに絡まりあったように思えた。
しばし二人はそうやって睨み合っていたが、やがて男が疲れたように顔を背けた。
「その通りさ。……もういいだろ、そろそろ帰るぞ」
 「………」
 

 
 
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